2014年10月31日

「麻世妙 majotae」デビュー: 辻野晃一郎コラム [2014年10月24日配信バックナンバー]

日本では古来から大麻布(たいまふ)が重宝されてきたそうですが、太平洋戦争後に大麻=麻薬ということでその栽培が禁止されてしまい、その後すっかり廃れて大麻布が人の目に触れることもなくなってしまいました。生活環境の変化の中で、「食」の安全に対する人々の意識が非常に高まっており自然食材が関心を集めていますが、同様に、「衣」の世界においても、自然素材の素晴らしさを見直す機運が高まってきています。中でも、大麻布は、速乾性に優れているほか、保湿性や抗菌性も高く、強靭でかつやわらかいという究極のファブリックとしての特質を多く備えているそうです。その日本人が忘れてしまった自然布の復活に向けて、近世麻布研究所の吉田真一郎さん、京都の帯匠誉田屋十代目の山口源兵衛さんのお二人が動き始めていたところ、偶然にもエイベックスの松浦さんとの出会いがあり、この異色の組合せでの取り組みが始まったそうです。

10月22日に、代官山のヒルズテラスの一角で、そのお披露目パーティーがありました。復活させた究極の大麻布は「麻世妙(まよたえ)」と命名され、これから世界のスタンダードファブリックにすることを目指すそうです。山口源兵衛さんは本当に強烈な方で、何をやるにも一切の妥協を排して突き抜けるタイプですが、京都人として完全なよそ者であるにもかかわらず、大阪岸和田のだんじり祭りにも強引に参加して毎年全力で岸和田の街を走り回り、大麻布の生産で赴いた奄美大島では猛毒ハブの捕獲に熱中したりと、とにかくやることなすこと桁外れな人物です。そんな源兵衛さんのエネルギーと、自然布を知り尽くした吉田さんの組合せに、エイベックスというブランド力や資本力が加わって今回のデビューが現実のものになったわけですが、このような取り組みこそ、20世紀のメイド・イン・ジャパンの成功体験とはまた別のスタイルで世界に日本が貢献する一つの形になるのではないかと予感させてくれます。

流通はまずは三越伊勢丹さんからスタートされるそうですが、世界から注目される日本発の新たなファブリックブランドとして育って行くことを期待したいと思います。
 
「麻世妙 majotae」デビュー

辻野晃一郎コラム
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2014年10月15日

アル・ゴア氏の講演: 辻野晃一郎コラム [2014年10月8日配信バックナンバー]

先日、米国の元副大統領アル・ゴア氏の講演を聞く機会がありました。ゴア氏は2007年にノーベル平和賞も受賞しています。受賞理由は、「人間の活動によって引き起こされる気候変動の問題を知らしめ、対応策の土台を築いた」というものです。周知の通り、「不都合な真実」と題した映画を作り、また同名の本を出版して、地球温暖化がもたらす深刻な環境悪化の問題を世界に知らしめる活動に注力している人物です。現在までにこのテーマで行った講演活動の回数は1000回以上にもなるそうです。

彼の話を聞きながら、それこそ、数十億年も続き、人類が誕生してからでも数十万年も続いてきた地球の生態系が、直近の数十年、特にここ最近の20年~30年程度の間にどれだけ急激に悪化したか、ということについての危機意識を新たにしました。地球温暖化は確実に進み、北極と南極の氷河はどんどんその面積を縮小しつつあり、いたるところで海面が上昇し、異常気象が頻発しています。デング熱を始め、熱帯の病気が北上を続け、また、先日は、世界で4番目の大きさといわれていた中央アジアの内陸湖であるアラル海がほぼ消滅した、というニュースも耳にしました。

ゴア氏は、地球温暖化は急速に進行中であり、それが人為的であること、そして人類が生き延びるためには、温暖化問題に世界全体が協力して取り組まなければならない、ということを巧みな話術で熱弁しました。彼の映画はイギリスで上映差し止めの訴訟沙汰になったり、また彼自身が温暖化利権で環境長者になった、ということでネガティブなキャンペーンもありますが、彼のように世界的に影響力のある人物が、この問題に長期にわたって精力的に取り組み、さまざまな活動を続けていることには素直に感銘を受けました。また、同時に、今からでも我々一人一人が地球を守る為の意識をさらに高めて行かねばならないという思いを新たにしました。

ゴア氏といえば、思い出すのはクリントン大統領と一緒に情報スーパーハイウェイ構想を打ち立てたことです。1993年頃ですから、まだインターネット前夜でしたが、放送と通信の融合など、情報インフラ整備の積極的な政策を打ち出して一気にネットワーク時代の到来を招き、後のグーグルの登場にも繋がりました。情報スーパーハイウェイ当時、私はソニーで関連のプロジェクトに携わっていたので感慨深いものもありました。2000年の大統領選では、ジョージ・W・ブッシュと最後まで激戦を繰り広げて僅差で落選しましたが、歴史に「もし」はないものの、「もしも」彼が勝利していたら、その後の9.11やイラク戦争もどうなっていたかわかりませんし、世界はまた違った姿になっていたかもしれない、などといういらぬことも妄想してしまいました。。。
 


辻野晃一郎コラム
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2014年10月1日

朝日新聞の件で思うこと: 辻野晃一郎コラム [2014年9月24日配信バックナンバー]

自分の耳に痛いことや厳しいことを言ってくれる人を大事にできるかどうかがその人の器量や成長を決めるのだと思います。昨今、朝日新聞の問題が大きな騒ぎになっていますが、その論評そのものはここでは避けるとして、従軍慰安婦問題で国家と国民の信頼を国際的に大きく毀損した責任は万死に値するものだと思います。福島原発の吉田調書の曲解報道もひどいものです。木村伊量社長の謝罪会見は、単に自社や自分の保身を目的としたものであったことがミエミエで、この会社の体質を一層はっきりと世間に晒してしまいました。

池上彰さんのコラム掲載拒否の一件がわかりやすかったですが、自分に都合の悪いことを握り潰すような体質がすっかり染みついていたのでしょう。公正さが信条の報道機関の資質はもはや完全に失われていたのだと思います。欧米メディアでは、社説と異なる外部有識者の意見をOp-ed(Opposite editorial)と称して掲載しバランスを保つ努力をしています。池上さんのコラムもまさにそのような役割を果たすためのものであったと思います。

しかし、今回のような話は朝日新聞だけの問題でしょうか?人間というのは実に弱く愚かなもので、すぐに勘違いして傲慢になったり、尊大になったりするものです。これを他山の石として、いま朝日新聞のバッシングに躍起な競合メディアや、一般の人達も、普段の自分の態度を振り返るきっかけにするのがいいのではないかと思います。耳の痛いことを直言してくれる人、厳しく批判してくれる人、普段の立ち居振る舞いにこまごまと注意をしてくれる人、そういう人達に対して怒ったり、煩わしく思ったりするのではなく、かけがえのない人達として、謙虚に耳を傾け、心から感謝しているかどうか、ということを。

辻野晃一郎コラム
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