2013年9月1日

デジタル製造革命: 辻野晃一郎コラム [2013年08月25日配信バックナンバー]

昨晩のNHK BS1のBiz+サンデーに出演しましたが、テーマは「デジタル製造革命」。 横浜で行われる第9回世界ファブラボ会議で来日したMITのThe Center for Bits and Atoms所長のNeil Gershenfeld氏をインタビューして昨今のデジタル・ファブリケーションの盛り上がりの本質を特集しました。彼は「Fab Lab」の概念と実際のネットワークを世界中に広めた立役者ですが、コンピューターが巨大で高額なメインフレームからパソコンへとダウンサイズした歴史になぞらえ、いずれ工作機械も工場から個人向けのパーソナルなものへと変遷していくことを予測して、その現場検証の為にFab Labの設立を始めました。その結果、今や世界50か国以上に200カ所以上のFab Labが存在するに至り、草の根から製造革命が始まっています。

Fab Labの広がりに呼応するように、米国ではオバマ大統領が先頭に立って製造イノベーションを国家戦略として推進していることは周知の通りですが、このトレンドはモノづくり大国である日本にとっても大きなチャンスといえます。そもそも、モノ造りとは個人のアイデアから始まるものであり、個人が作りたいものを作り、周囲にそれを欲しがる人がいれば、少しずつ作り増して行くようなスタイルが、やがて規模の追求や経済合理性に基づき、大資本の大きな工場で大量生産する、という流れに進化していきました。私がいたソニーなどももともと小さな町工場からスタートして「井深さんの夢を実現するための職人集団」とよく盛田さんが言っていました。やがて力を付けた日本の製造業は性能においても品質においても世界一の工業製品を生み出し続けるようになり、まさにmade in Japanの輝ける繁栄の時代を築きあげました。しかしながら、20世紀に日本が築き上げた垂直統合型の製造業のスタイルは、その後のデジタル化やパーソナル化の流れとインターネットによって過去のものとなり、競争力を失いました。逆に、アメリカではITリテラシーの高い人達が製造業のスタイルも大きく変えつつあり、新しいトレンドを次々と生み出しています。

デジタル・ファブリケーションの本質は、すべてのモノをデジタル・データで表現することにあります。データで表現されたものは、物理的な在庫を持つ必要もなく、また輸送の手間もなく、究極的にはニーズのある瞬間にニーズのある場所にデータを転送してそこで復元する、という製造オンデマンドを実現します。よく、SF映画などで、モノの瞬間移動や、リプリケーター(復元機)等が登場しますが、これらも将来決してありえない、という話ではないと思います。自分が若かった時から考えると、インターネットが発達し、スマホが日常になっている光景はまさに当時のSFの世界でしたが、今や現実になっています。

弁証法で有名な哲学者のヘーゲルが、「進化の螺旋階段」ということをいっています。すなわち、横から見ると上に登っていくが、真上からみると同心円を描いている、という意味です。昔の万屋さんの時代から、スーパーマーケットの時代になり、その後万屋がコンビニに進化して復活した、というように、製造業も、個人や小規模な工房でのモノづくりが中心だった時代から、大資本での大量生産の時代になり、その後また工房がデジタル・ファブリケーションの一環として復活する、というような螺旋階段を上っているのだと思います。

弊社では、COUNTDOWNにより、クラウドファンディングという新しい仕組みを使ったモノ造り支援を積極推進して行こうとしております。また、ALEXCIOUSのような越境コマースサイトの環境も整えて、世界へ向けた販売支援も積極推進しています。これらを、螺旋階段を上昇していくための基本パーツとして育てて行きたいと考えております。

辻野晃一郎コラム

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