2013年9月17日

2020年への期待: 辻野晃一郎コラム [2013年09月10日配信バックナンバー]

先日のオリンピック・パラリンピック東京招致確定のニュースは、日本全体を久々に明るくしてくれた。まさに、待ちに待った瞬間でもあった。自民党政権を復活させて以来、安倍首相には並々ならぬ覚悟と迫力を感じるしそれがきちんと伝わってくる。福島第一原発の汚染水問題に関する答弁を問題視する向きもあるが、あの場面で他にどのような対応の仕方があったというのだろう。不明確な答弁をして、不信感を増幅し、招致を失敗するよりも、半分は事実というより決意表明に過ぎなかったとしても、国のリーダーがあそこまで明確に断言して招致を勝ち取ったことの方を高く評価すべきだと私は思う。オリンピックを東京に招致したことにより、被災地の復興も、原発災害への対応も、そうでなかった場合に比べてはるかに加速するのは間違いない。何より、2020年に向けて国家レベルの明るい目標が設定されたことは日本再生に大いにプラスに作用する素晴らしいことだ。

先日、米国イリノイ大学で活躍し、ロンドンパラリンピック日本代表でもあった車椅子バスケットボール選手、香西宏明さんがドイツのプロリーグに移籍されるということでその壮行会に参加した。いい機会だったので、弊社のクラウドファンディングCOUNTDOWNで心のバリアフリー運動のチャレンジを成功させた池田君江さんとご主人もお誘いした。香西さんは生まれつき、池田さんは事故で車椅子生活を余儀なくされている。香西さんや池田さんの生き方から我々が学ばせていただくことは実に多い。今回の招致もきっかけにして、普段の生活の中でもっと健常者と障害者が自然に接する機会や場が当たり前の世の中を作っていかねばならない、ということを今更ながらに強く思う。

7年後に向けたカウントダウンは今始まったばかりだ。アスリート界のみならず、国家レベルから個人レベルまでのさまざまなチャレンジや活動が数多く始動することだろう。7年というと長いようであっという間だ。それらの多くが実を結び花開き、競技場の内外で、たくさんの感動と笑顔が生み出されることを心から祈念せずにはおれない。

辻野晃一郎コラム

このエントリーは 2013年09月10日 配信の ALEXコーポレートメールマガジンのバックナンバーになります。メールマガジンの購読を希望の方はこちらのフォームからお願いいたします。

2013年9月1日

デジタル製造革命: 辻野晃一郎コラム [2013年08月25日配信バックナンバー]

昨晩のNHK BS1のBiz+サンデーに出演しましたが、テーマは「デジタル製造革命」。 横浜で行われる第9回世界ファブラボ会議で来日したMITのThe Center for Bits and Atoms所長のNeil Gershenfeld氏をインタビューして昨今のデジタル・ファブリケーションの盛り上がりの本質を特集しました。彼は「Fab Lab」の概念と実際のネットワークを世界中に広めた立役者ですが、コンピューターが巨大で高額なメインフレームからパソコンへとダウンサイズした歴史になぞらえ、いずれ工作機械も工場から個人向けのパーソナルなものへと変遷していくことを予測して、その現場検証の為にFab Labの設立を始めました。その結果、今や世界50か国以上に200カ所以上のFab Labが存在するに至り、草の根から製造革命が始まっています。

Fab Labの広がりに呼応するように、米国ではオバマ大統領が先頭に立って製造イノベーションを国家戦略として推進していることは周知の通りですが、このトレンドはモノづくり大国である日本にとっても大きなチャンスといえます。そもそも、モノ造りとは個人のアイデアから始まるものであり、個人が作りたいものを作り、周囲にそれを欲しがる人がいれば、少しずつ作り増して行くようなスタイルが、やがて規模の追求や経済合理性に基づき、大資本の大きな工場で大量生産する、という流れに進化していきました。私がいたソニーなどももともと小さな町工場からスタートして「井深さんの夢を実現するための職人集団」とよく盛田さんが言っていました。やがて力を付けた日本の製造業は性能においても品質においても世界一の工業製品を生み出し続けるようになり、まさにmade in Japanの輝ける繁栄の時代を築きあげました。しかしながら、20世紀に日本が築き上げた垂直統合型の製造業のスタイルは、その後のデジタル化やパーソナル化の流れとインターネットによって過去のものとなり、競争力を失いました。逆に、アメリカではITリテラシーの高い人達が製造業のスタイルも大きく変えつつあり、新しいトレンドを次々と生み出しています。

デジタル・ファブリケーションの本質は、すべてのモノをデジタル・データで表現することにあります。データで表現されたものは、物理的な在庫を持つ必要もなく、また輸送の手間もなく、究極的にはニーズのある瞬間にニーズのある場所にデータを転送してそこで復元する、という製造オンデマンドを実現します。よく、SF映画などで、モノの瞬間移動や、リプリケーター(復元機)等が登場しますが、これらも将来決してありえない、という話ではないと思います。自分が若かった時から考えると、インターネットが発達し、スマホが日常になっている光景はまさに当時のSFの世界でしたが、今や現実になっています。

弁証法で有名な哲学者のヘーゲルが、「進化の螺旋階段」ということをいっています。すなわち、横から見ると上に登っていくが、真上からみると同心円を描いている、という意味です。昔の万屋さんの時代から、スーパーマーケットの時代になり、その後万屋がコンビニに進化して復活した、というように、製造業も、個人や小規模な工房でのモノづくりが中心だった時代から、大資本での大量生産の時代になり、その後また工房がデジタル・ファブリケーションの一環として復活する、というような螺旋階段を上っているのだと思います。

弊社では、COUNTDOWNにより、クラウドファンディングという新しい仕組みを使ったモノ造り支援を積極推進して行こうとしております。また、ALEXCIOUSのような越境コマースサイトの環境も整えて、世界へ向けた販売支援も積極推進しています。これらを、螺旋階段を上昇していくための基本パーツとして育てて行きたいと考えております。

辻野晃一郎コラム

このエントリーは 2013年08月25日 配信の ALEXコーポレートメールマガジンのバックナンバーになります。メールマガジンの購読を希望の方はこちらのフォームからお願いいたします。