2013年8月14日

日本でクラウドファンディング事業をやる意味: 辻野晃一郎コラム [2013年08月10日配信バックナンバー]

日本ではいわゆる「リスクマネー」が回っていない、とよく言われますが、実際回っていません。2011年の統計ですが、米国での年間のベンチャーに対する投融資の総額が日本円で3兆円程度なのに対し、日本では1200億円あまりに過ぎません。では、日本にはお金がないのかというと、個人預金の総額は1400兆円とも1500兆円とも言われていますし、企業が内部留保している現金も震災前には500兆円とも言われていました。すなわちお金はあってもそれが将来投資に回っていないという構図なのです。

2013年版の世界銀行の各国別のビジネス環境に関する調査(Doing Business 2013)でも、日本は「ビジネス環境総合(ease of doing business)」では185ヵ国中24位にランキングされているにもかかわらず「起業のしやすさ(starting a business)」という項目では114位にランキングされています。前述した投融資環境の問題だけでなく規制面や税金面など、日本からもっとベンチャーを生み出すためには多くの面での改善が必要なのです。

アベノミクスの成長戦略ではベンチャー育成に力を入れることになっていますからこの状況が好転して行くことを期待しますが、米国国家情報会議のGlobal Trends 2030 (「2030年世界はこう変わる」、講談社)によると、日本は国家としての繁栄期を1995年に終えて凋落する国として捉えられており、このままでは世界一の高齢者大国として経済も縮小の一途をたどることになっています。2030年までには後17年しかありません。今生まれてくる人達が思春期を迎えて社会人になる頃に日本を衰退国家としないためにはまさに今現在の我々の決意と行動が重要なのです。

クラウドファンディングという仕組みは日本でも根付くのか?という議論がありますが、チャレンジする人達を増やし、励ます土壌を育成すると同時に、日本の安定志向で保守的な体質を変えていく為の一石を投じる、という意味では非常に有望なオプションであるのは間違いなく、この手法の利用形態を様々に工夫して浸透させていかねばならないと決意しております。

皆様にもより一層の関心をお持ちいただきたいと願っております。

辻野晃一郎コラム

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2013年8月12日

うめきた未来会議MIQS: 辻野晃一郎コラム [2013年07月25日配信バックナンバー]

27日(土)にグランフロント大阪内のナレッジシアターで、毎日放送、グランフロント大阪、ナレッジキャピタルの共催で「うめきた未来会議MIQS」が開催され、そちらに基調講演者として参加しましたので簡単にレポートしておきます。主催者によると参加希望者多数で抽選になったそうですが、300名程の聴衆を前に、さまざまな分野で活躍しておられる研究者や実業家の皆さんが集まって「イノベーション」を主題にプレゼンテーションや交流会を行うという催しで、プレゼンテーションのパートはTEDに近い印象でした。私も初めて聞く話が多く、皆さん、どのお話も素晴らしく、またプレゼンテーションも非常にお上手で、とても刺激になりました。

会場ではその時間帯に参加者だけに準備された交流サイトもオープンされており、登壇者の質問に対し、参加者がスマホやPCで回答、その場で反映されるといった取り組みもありました。私は、 あえて、「大阪発のイノベーションは世界を変えるか?」 という問い掛けをしたのですが、A:変える(67%) B:変えない(0%) C:わからない(6%) D:変えてほしい(27%)という結果だったようです(笑)。また、同様のサービスによると、聴衆のデモグラフィーは、男女比は男性が73.6%、女性が26.4%、年代は20代が22.3%、30代が19.1%、40代が26%、50代以上が32.6%、職業別ではサービス、学生、デザイン、メディア、小売流通、システム、通信ネットの順で比較的幅広い層の聴衆が集まったようです。

プレゼンテーターの方々は、まるで異なる分野に取り組んでいるイノベータ―の皆さんでしたが、①人が単にリスクや無謀としか感じないようなテーマに逆にオポテュニティや可能性を感じ取るセンス、②苦境を楽しんだり面白がるネアカなメンタリティ、③とりあえずやってみるといった乗りの良さやフットワークの軽さ、④うまく行くまであきらめないといった忍耐力、⑤自分を信じ切る胆力などが共通点だと感じました。

「イノベーションとは、何も朝目覚めた時にひらめくものではなく、異業種のコミュニケーションの中からこそ生まれる」、というのはグーグルでも言われていたことですが、この新しい大阪の拠点が、文字通り日本の「ナレッジキャピタル」として様々な知の交流をはぐくみ、世界に向けたイノベーションが多く生まれることを期待したいと思います。

辻野晃一郎コラム

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2013年8月9日

年齢を重ねるということ: 辻野晃一郎コラム [2013年07月15日配信バックナンバー]

先日、誕生日を迎えてまた一つ歳を重ねた。私と同じ世代の友人達は、大抵が民間企業や公官庁で、そろそろ上がりのポジションに入って、傍から見ていると悠々自適な生活を満喫しているようだ。本社で上り詰めることは叶わなくとも、子会社等で比較的余裕のあるポジションに着いたり、子供たちも既に巣立っていて、やれゴルフだの、夫婦での海外旅行だのと、金銭的にも時間的にも余裕のある生活を送っているように見える。

それに比べて、私自身は現在起業して3年が経ち、自ら始めた事業を軌道に乗せようと悪戦苦闘の毎日が続いている。先日、久し振りに会った昔の同僚から、「もっと楽な選択肢はいくらでもあったろうに、一体、何の為にまだそんな苦労を続けているのですか?」と面と向かって言われた(笑)。なるほど、そのような見方もあるのかもしれないな、と思った。

しかし、人にどう思われようと、これが自分の求める生き方なのだから仕方がない。こんなに課題や可能性に満ち溢れた時代を迎えて、このまま穏便にリタイアして行くというような生き方は自分には絶対に出来ないし向いていないのだ。

今のような生き方にはっきりと転換できたのはやはりソニーを辞めたからだろう。ソニー時代には大企業のエスタブリッシュメントとしての自分の将来像をイメージしていた時期もあったように思う。だから、その頃の自分からすれば、今の自分の生きる道は想像だに出来なかったかもしれないし、当時の自分とは人生の価値観も内面も大きく変わったと感じる。しかし、そのお陰で、いろいろと日々の生活は大変でも、自分の思い通りに、フットワークのいい生き方を手に入れることが出来た。

昔、クリント・イーストウッドが歳を取ることについて「よりいい人間になるということだ」とサラリと言ってのけていたのをアメリカのTV番組で見かけて、実に爽やかでカッコいい人だな、と思った。年齢的にもその境地にはまだまだほど遠いが、生涯、何かに挑戦し続ける生き方を続けられたら本望だ。

健康に留意しながら、周囲への感謝の気持ちを忘れずに、また新たな成長や飛躍を実感できる歳にしたいと思う。

辻野晃一郎コラム

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2013年8月7日

欧州出張報告: 辻野晃一郎コラム [2013年06月25日配信バックナンバー]

ルクセンブルク経済通商省東京貿易投資事務所のアレンジで6月19日、20日にルクセンブルクで開催されたICT 2013 Spring, Europeに参加して基調講演を行ってきました。テーマは、How Japan should contribute to the world in the era of cloud computing として、震災後の復興遅延の様子や家電業界を始めとした産業界の苦境を概観し、クラウドコンピューティングの時代を迎えて日本は大きく変わらねばならないこと、そして、20世紀に工業製品の輸出でmade in Japanブランドを築き上げたスタイルやビジネスモデルとは別の発想、別のやりかたで世界貢献をして行かねばならないことを持論として展開しました。その上で、現在弊社で進めていること、および今後やろうとしていることについてALEXCIOUSおよびCOUNTDOWNそれぞれのサイト紹介も含めて行ないました。

このイベントは、全体の来訪者が4000名ということでしたので、比較的小規模なイベントでしたが、日本からも10数社のスタートアップの若い経営者達が参加していて頼もしく思いました。現地の投資家や起業家支援団体の人達も含め、朝食会、夕食会などで活発な交流が行われました。

ルクセンブルクには日本人が経営する日本食レストランは2軒のみということでしたが、25年間続けていてHenri大公もお気に入りという「鎌倉」という和食レストランを訪れて宮前さんというオーナーとも懇談しましたが、世界中どこに出掛けても現地の人達に一目置かれた日本人が活躍している姿に接するのは嬉しいものです。

Tsumeという社名のフィギュア制作会社も訪問しましたが、社長はじめ、スタッフは全員欧州の外国人。東映アニメやバンダイなど、日本のライセンサーから正式に地域限定ライセンスを受けてキャラクターフィギュアの3Dモデリングと制作を行っていました。丁度、7月初旬のパリでのJapan Expoに向けた新作の運び出しの準備を行っていましたが、非常にクウォリティの高い作品を作っていました。今や日本のアニメやコミックに大きな影響を受けて育った外国人は珍しい存在ではなくなりました。

西ヶ廣大使から日本大使公邸でのランチにご招待いただき、ルクセンブルク経済通商省の人達も加わって日欧の経済情勢等の情報交換、意見交換を行いましたが、ちょうど終わったばかりのG8の様子などを興味深く聞かせていただきました。日本ではアベノミクスに関心が集まったような報道もありましたが、話題の中心は圧倒的にシリア情勢についてだったとのことでした。

その後に立ち寄ったパリでは、漫画、雑貨、食品、日本酒、着物、茶・茶道具等、日本関連の商品を扱っているところを網羅的に案内してもらいましたが、うどん屋が流行っていてどこも入り口に行列が出来ているのが印象的でした。2大百貨店であるプランタンとラファイエットおよび老舗百貨店のボンマルシェ、日仏文化会館なども訪問しましたが、ボンマルシェには日本酒の販売コーナーもあってさまざまな銘柄が試飲されていました。

パリの後でロンドンにも立ち寄りましたが、ソニー時代に頻繁に訪れていた頃に比べると圧倒的に中国人が増えているのが目立ちました。ブランド店や空港なども大勢の中国人で溢れ返っている印象でした。また、もともと欧州での日本車のシェアはそれほど高くはないものの、それでも当時はそこそこ走っていたように記憶していますが、今回は日本車はまったく見かけませんでした。家電量販店には立ち寄りませんでしたが、街中ではSamsungの広告を見かけることはあっても、ソニーやパナソニックの宣伝を見かけることはなく、数年前に比べて、前述のような新たな日本ブームとは裏腹に、かつてこの世の春を謳歌した分野での日本の国力の衰えを実感しました。

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2013年8月5日

現在価値と将来価値: 辻野晃一郎コラム [2013年06月10日配信バックナンバー]

アベノミクスに浮かれる人達も、アベノミクスを批判する人達も、一様にグローバルレベルで激変する経済環境の真っただ中に置かれていることには何も変わりがない。その中にあって、ここ数ヶ月で大儲けした人もいれば、大損した人もいるだろう。ビジネスに携わる者にとって、「機を見るに敏である」という資質はもっとも重要な資質の一つであるが、一方で、目先のことに一喜一憂するばかりでなく、変わりゆく世の中の行く末を自分なりにじっくり見据えて、人生や社会の将来価値を生み出すような生き方をして行きたいと願う。

会社にたとえると、たとえ現在価値が大きくても日々将来価値を生み出すような企業活動を伴わない会社はいずれその企業価値を目減りさせて衰退していく。一方で、設立したばかりで現在価値の小さな会社でも、将来価値が大きくなるような市場やトレンドに目をつけ、日々新たな企業価値を生み出し高めるような活動を積極的に展開する会社は、たとえ最初は苦しい時期が続いても、いずれ大きな価値を社会に還元する存在になり得る。

自分が現在価値を守る立場で仕事をしているのか、将来価値を生み出す立場で仕事をしているのか、という視点は、自分自身のその時々の活動をチェックする時に必ず意識しておきたい。事業活動を行う上で、毎日の生活の糧を得るという観点では、「現在価値を守る」為の行為も極めて重要だが、常に成長する会社であり続けようと考えるのであれば「将来価値を生み出す」為の卓越したビジョンや勇気、その上での覚悟と計画に基づいた経営資源の継続投入が不可欠だ。

そのようなバランスを欠き、日々の糧を得る為の短期的な結果に一喜一憂しつつ、ひたすら現在価値を食い潰すだけの企業に未来はない。日本衰退の一因は、現在価値や過去の栄光にすがったりぶら下がったりする企業が増えて、将来価値を生み出すことに身体を張ったり、命運を賭けるような企業が減ってしまったことにもあるだろう。

アベノミクスの成長戦略の成否は、そのような現状を打破して、新しく元気で将来価値を生み出すことに体を張って頑張る起業家を増やし、その人達を応援する土壌作りとして、資金面でも制度面でも、産業構造の新陳代謝を促進する仕組みを作って行けるかどうか、ということに掛かっている。

辻野晃一郎コラム

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2013年8月2日

大阪新拠点オープン: 辻野晃一郎コラム [2013年05月25日配信バックナンバー]

市長兼野党党首の発言と釈明が巷を賑わせていますが、大阪と東京を行き来していると、同じ日本人なのに人々の立居振る舞いがいろいろと違うことに気付かされます。エスカレーターで立つ位置が左右逆なのは有名な話ですが、信号でも赤信号で平気で渡って行く歩行者が東京よりも多い気がします。New Yorkでも信号を律儀に守る人などいないに等しいのですが、これは、明らかに車が来てなくて危険がないと判断できれば合理的な行動とも言えますし、事故に遭うも遭わないも自己責任という意識が強いせいなのでしょうか。あるいは単純にせっかちな人が多いだけなのでしょうか。また、街を歩いていたり、レストランで食事をしていると、とても人懐っこい人が多いような気もします。東京に比べると見知らぬ人から話し掛けられる機会が多いです。

先月、大阪梅田のJR跡地が再開発されてグランフロント大阪という大阪の新しいビジネス拠点がオープンしました。ここには多くの商業施設に加えて、オフィスやシアター等が併設されていますが、ナレッジキャピタルという様々な知の交流や異業種交流を目的とした場が作られていて注目しています。企業、行政、大学、および一般の人々がさまざまな形で活発に交流する場ができることは大阪の再生にも大いに貢献することになると思います。「ラボ」と名付けられた諸施設では企業や大学などで取り組んでいる新技術や新商品のデモなども行われており、大阪発、関西発のイノベーションにも期待が高まります。私の個人的なイメージですが、「もうかりまっか?」に象徴されるように、もともと関西には商売に対する意識や意欲やセンスの高い「商人」が多く、一方で、消費者もしたたかで金銭感覚の鋭い人が多いように思います。大阪には日本再生のきっかけになるような素養がさまざま揃っているのではないでしょうか?

弊社も来月よりこちらのナレッジサロンの法人会員となって、大阪はじめ、関西地区での活動の拠点にして行く予定です。

辻野晃一郎コラム

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