代表取締役社長兼CEO 辻野晃一郎
建仁寺の話が出たので、続編です。建仁寺は京都祇園の一角、花見小路の奥にある臨済宗の名刹で、よく近くは通るものの、じっくりと内部を拝観したのは初めてでした。添付の写真は、境内の一部屋に飾ってあるものですが、建仁寺第四代管長、竹田黙雷禅師による禅宗の開祖達磨大師の絵です。この絵の上には、「無功徳」と書いてあります。案内して下さった僧侶から以下のような話を聞かせていただきました。
その昔、達磨大師がインドから中国に渡り、中国・梁の武帝に面会した時に、武帝が 「私は沢山の寺院を建て、写経も行い、多くの僧侶を養成しましたが、どのような功徳がありますか?」 と、尋ねました。「仏心天子」とも呼ばれていた武帝は仏教に深く帰依しその興隆発展に多大に寄与したという強い自負があり、達磨からの礼賛の言葉を期待したものと思われますが、達磨はただ一言、「無功徳 (功徳はまったくない)」 と、即答したそうです。「功徳」とは、良い行いに対する報い、ということですが、どんなに立派な行いをしても、見返りを求めた瞬間にその価値は無い、という教えです。
日常生活の中で、我々はほんの些細な行為に対しても、「ありがとう」と言われないとがっかりしてしまったりします。その一方で、自分が人から受けた恩や行為はすぐに忘れてしまいます。何の見返りも求めずに、自分が良いと信じることを無心に行うことは簡単なことではありませんが、人として最も気高い行為といえるのかもしれません。