代表取締役社長兼CEO 辻野晃一郎
経済産業省がエンジェル税制(ベンチャー企業投資促進税制)というスタートアップに出資した個人投資家への税制優遇制度を実施している。
http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/angel/index.html
これによると、
「エンジェル税制(ベンチャー企業投資促進税制)とは、ベンチャー企業への投資を促進するためにベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度です。ベンチャー企業に対して、個人投資家が投資を行った場合、投資時点と、売却時点のいずれの時点でも税制上の優遇措置を受けることができます。」
とあるので、弊社に対して支援して下さっている個人投資家の皆さんにとっても非常にいい制度だと思い、窓口の関東経済産業局に事前確認を行った上で、今年の確定申告に間に合うよう、対象となる投資家の皆さんに本制度による控除の御案内と手続きを進めていた。ところが、その後、一転、弊社がこの税制の適用対象企業であることには問題はないのであるが、各個人投資家に関しては、この制度の「同族会社規定」に抵触して適用外になる、という通達が関東経済産業局の担当官からあった。
「同族会社」といわれても、弊社は志を共有する親族でも何でもない、まったくの他人である4名の個人資本でスタートし、その後、御支援いただいている個人出資者の皆さんにも親戚縁者はいないので、まったくピンとこない。驚いて、上位組織である経済産業省新規産業室の担当者に事情を伺おうと連絡したところ、責任者の方々も同席の上で、お話をする機会を得た。
ここでは、やり取りの詳細は省くが、わかったのは、この同族会社規定は、本来のベンチャー企業以外の、所謂個人商店のような業態を除く為の措置として設けられているようなのであるが、裏には、この制度を積極推進しようとしている経済産業省側の思惑と、課税対象範囲を狭めたくないとする財務省の思惑が交錯しているように思えた。また、この制度そのものに関しても、十分な周知徹底がなされているとは思えず、未だ、公認会計士や税理士にすらきちんと認知されているとは言い難い。我々も、資本政策を策定する段階では十分なアドバイスを得られなかった。
かねて、私は、日本の新産業育成の基盤がシリコンバレー等に比べて極端に弱く、それが国の競争力を落としている一因にもなっていると強く思っているので、起業する時に、自分達が所謂実験台(モルモット)になって、起業のプロセスの中で行き当たるこの国のさまざまな障害を自ら実体験し、そういう障害をひとつひとつ取り除く為にも動いて行きたいと思っているのだが、今回、この一件でも、制度設計上の大きな矛盾を感じた。そもそも、同族会社でもない企業が同族会社規定(この制度で一方的に決められている定義)に引っ掛かったり、この制度の主旨から言えば、まっとうに税制優遇措置の対象になる個人投資家に、その制度が適用されないのは、制度設計上の不備以外の何物でもないと思うからである。
表向き、新規産業育成とかベンチャー投資促進とか言いながら、実質的にはポーズだけの中途半端で使えない施策を打ってみたところで大きな効果は期待できない。こういうところに、国の本気度が露呈するのである。
蛇足であるが、経済産業省新規産業室のページの「新規産業関連施策」の筆頭にあるエンジェル税制のリンクも切れている。
http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/index.html
今、経産省に指摘をしておくので、いつ頃リンクが復活するのか、時間を計測してみたいと思う(笑)。